孤独死が起きた場合の原状回復費用の相場は?内訳や誰が支払うかも解説

「孤独死が発生した物件の原状回復費用はどのくらいかかる?」
「だれが費用を負担するのか不安…」
「適切な業者選びの基準がわからない」
といったお悩みをお持ちではありませんか?
残念ながら、賃貸物件での孤独死は年々増加傾向にあります。
孤独死による原状回復費用は、発見までの期間や損傷の程度によって30万円から300万円以上まで、大きな幅があるのが現状です。
そこで本記事では、孤独死における原状回復費用の相場から、費用負担者の確認方法、適切な業者選びのポイントまでを具体的に解説します。
賃貸物件オーナーの方や不動産管理会社の方、また将来的なリスク対策を考えている方は、ぜひ最後までご一読ください。
1.孤独死が起きた場合の原状回復費用の相場は?
孤独死が発生した場合の原状回復費用は、物件の状態や発見までの期間によって大きく変動するのが一般的です。
具体的には、日本少額短期保険協会の「第8回孤独死現状レポート2024年」によると、以下のような費用が発生しています。
費用項目 | 平均損害額 | 最大損害額 | 最小損害額 |
原状回復費用 | 397,158円 | 4,546,840円 | 5,200円 |
残置物処理費用 | 237,218円 | 1,781,595円 | 1,080円 |
原状回復費用と残置物処理費用を合わせると、平均で約63万円の費用が必要です。
最大では450万円以上かかるケースもあり、発見が遅れるほど費用は高額になる傾向にあります。
ただし、孤独死による原状回復費用は物件によって大きな差があるのが現状で、以下が代表的な清掃範囲と費用の目安です。
清掃範囲・内容 | 費用(税込) |
1K(23㎡)和室(発見まで1か月) | 308,000円 |
2LDK(40㎡)(発見まで3日) | 649,000円 |
部分清掃(5㎡)(発見まで2週間) | 47,300円 |
体液や血液の清掃 | 49,960〜98,000円 |
基本消臭処理(例:1K) | 16,700〜24,500円 |
除菌(例:1K) | 19,120〜22,470円 |
特に発見までの期間が長くなると臭気や汚染が建材に深く染み込んでしまうため、費用が高額になる傾向にあります。
また、室内の状況によっては畳やフローリングの張り替え、壁紙の張り替えなども必要となり、追加費用が発生することもあります。
原状回復費用の中でも特に高額となるのが特殊清掃費用です。
専門的な技術と特殊な機材、そして厳重な衛生管理が必要となるためです。
また、消臭・除菌作業も重要な工程となり、完全な復旧までには複数回の処理が必要になることもあります。
2.孤独死が発生したときの原状回復費用はだれが払う?
孤独死が発生した場合の原状回復費用は、以下の順序で支払い義務が発生します。
- 本人(遺産・保険金)
- 相続人・連帯保証人
- 保険会社・保証会社
- 大家・不動産業者
原状回復費用は、決して安価ではないため、支払い義務者を正しく理解して適切な対応を取ることが重要です。
1つずつ、見ていきましょう。
原状回復費用を支払う人1.本人(遺産・保険金)
原状回復費用の支払いは、まず孤独死した本人の財産から行われ、預貯金や不動産などの遺産が第一の支払い原資となります。
孤独死の場合、現場の中に入れないことが多く、警察がキャッシュカードや財布などの貴重品を回収することが多いです。
しかし、相続放棄を検討している場合はそれらに手をつけられないため、本人の遺産を原資とするのは期待しすぎないほうが良いかもしれません。
また、生前に生命保険や孤独死対応の特約付き保険に加入していた場合、その保険金も原状回復費用の支払いに充当可能です。
特に近年は孤独死のリスクに備えて、家財保険や借家人賠償責任保険に孤独死特約を付帯するケースが増えています。
このような保険に加入していれば数十万円から数百万円規模の保険金を受け取れるため、原状回復費用の大部分をカバーできる可能性があるのです。
原状回復費用を支払う人2.相続人・連帯保証人
本人の遺産や保険金だけでは原状回復費用を賄えない場合、相続人や連帯保証人に支払い義務が及びます。
相続人は民法上の相続債務として、連帯保証人は賃貸借契約における保証債務として、それぞれ支払い責任を負うのです。
例えば原状回復費用が100万円かかり、遺産が30万円しかない場合、残りの70万円について相続人や連帯保証人に支払い請求がされます。
ただし、相続人が相続放棄をした場合は、連帯保証人に支払い義務が発生します。
原状回復費用を支払う人3.保険会社・保証会社
物件に対して孤独死保険や家財保険が契約されている場合、その保険金から原状回復費用が支払われます。
特に賃貸住宅総合保険などでは、孤独死による特殊清掃費用や修繕費用が補償されるケースも多いです。
また、連帯保証人の代わりに保証会社を利用している場合は、未払い家賃や原状回復費用の一部を保証会社が負担します。
ただし、保証会社によって補償範囲や上限額が異なるため、契約内容を確認することが重要です。
原状回復費用を支払う人4.大家・不動産業者
上記のいずれの方法でも原状回復費用を賄えない場合、大家が負担することになります。
経営上大きなリスクとなるため、事前の対策として以下の準備をしておくのが一般的です。
- 入居者に対する孤独死保険への加入要請
- 保証会社の利用義務付け
- 大家自身の保険に加入
- 定期的な見守りサービスの導入
このように複数の対策を組み合わせることで、孤独死による経済的損失を最小限に抑えられます。
3.孤独死現場の原状回復が必要になったとき連帯保証人に請求できる費用
孤独死が発生した場合、原状回復にかかる費用は連帯保証人に請求できます。
具体的に請求可能な費用は、以下の通りです。
- 原状回復費用
- 損害賠償費用
- 汚損箇所・交換箇所の復旧費用
- 畳・フローリングの張替え費用
- 明け渡しまでに必要な家賃
賃貸借契約における特約や事案の重大性によって請求額が変動するため、以下ではそれぞれの費用について詳しく見ていきましょう。
請求できる費用1.原状回復費用
原状回復費用は、孤独死によって事故物件となった物件の価値低下に対する補償として請求できます。
具体的には、家賃の減額を余儀なくされる期間の損失分を算出し、その金額を損害賠償として請求可能です。
一般的に、事故物件による家賃減少は20〜30%程度とされており、この減少分を2〜3年分計上することが多くあります。
例えば、月額10万円の物件で30%の家賃減少が2年間続く場合、72万円(3万円×24か月)の損害賠償を請求できる可能性があるのです。
ただし、この金額は物件の立地や築年数、事故の程度によって大きく変動します。
請求できる費用2.損害賠償費用
損害賠償費用は、孤独死による悪臭や害虫の発生によって建物全体や近隣住民に与えた影響に対する補償として請求できます。
特に集合住宅の場合は他の入居者への影響が大きく、補償額が高額になる傾向です。
請求対象になる費用の例は例は以下のとおりです。
- 消臭作業費用
- 害虫駆除費用
- 近隣住民への見舞金や補償金
- 共用部分の修繕費用
これらの費用は、実際に発生した被害の程度に応じて算定されます。
請求できる費用3.汚損箇所・交換箇所の復旧費用
孤独死現場での体液の染み込みや腐敗による汚損は建物の構造材にまで影響を及ぼすことがあるため、復旧費用を請求できます。
請求対象になる費用の例は例は以下のとおりです。
- 壁紙の張替え費用
- クロスの交換費用
- 床下や天井裏の消毒・除菌費用
- 給排水設備の修繕費用
特に体液が染み込んだ箇所は、建材の深部まで影響が及んでいるため、表面的な処理だけでなく、構造材の交換が必要になることもあります。
請求できる費用4.畳・フローリングの張替え費用
以下のように畳・フローリングの完全な張替えや新調が必要となる場合も、費用の請求が可能です。
- 畳の表替えまたは新調費用
- フローリングの撤去・処分費用
- 新規床材の施工費用
- 下地の補修・交換費用
一般的な相場として、6畳間の畳替えで15〜20万円、フローリング張替えで20〜30万円程度かかることが多いですが、汚損の程度や床下の状態によってはさらに高額になることもあります。
請求できる費用5.明け渡しまでに必要な家賃
孤独死が発見されてから、実際に物件が明け渡されるまでの期間の家賃相当額も請求可能です。
この期間には以下が該当します。
- 発見から契約解除までの期間
- 特殊清掃期間
- 原状回復工事期間
- 行政手続きに要する期間
通常、作業完了までに1〜3か月程度かかることが多く、その間の家賃相当額が請求可能です。
ただし不当に工期を延長することは認められないため、合理的な期間内の家賃のみが請求対象となります。
4.孤独死現場を原状回復する特殊清掃業者の選び方
孤独死の原状回復作業を依頼する特殊清掃業者の選び方は、以下のとおりです。
- 特殊清掃を専門にしているか確認する
- 見積もり・契約内容が明確か確認する
- 遺品の分類や遺品の消臭も可能か確認する
適正価格で依頼するためにも、それぞれのポイントをしっかり押さえておきましょう。
選び方1.特殊清掃を専門にしているか確認する
特殊清掃は通常の清掃とは異なり、専門的な知識と技術が必要な作業のため、業者選びでは特殊清掃の実績と専門性を重視する必要があります。
まず確認すべきは、特殊清掃の経験件数です。
年間100件以上の実績がある業者であれば、さまざまなケースに対応できる技術とノウハウを持っている可能性が高いと判断できます。
次に、有害物質や感染症への対策として廃棄物処理法に基づく許可や、感染症対策に対する意識が高いかどうかをホームページに書いてある情報から確認しましょう。
さらに、消臭・除菌作業のための専門的な機材や薬剤を保有しているかも確認してください。
特に床下や壁内の消臭作業には特殊な技術が必要となるため、これらに対応できる設備を持っているかどうかが重要です。
選び方2.見積もり・契約内容が明確か確認する
見積もりと契約内容の透明性を確認することも、業者選びの重要なポイントです。
見積もりと契約内容が曖昧だと、不当に料金を請求されている可能性があります。
まず、現場の下見を行った上で詳細な見積もりを提示してくれる業者を選びましょう。
写真や電話だけの概算見積もりでは、実際の作業時に追加料金が発生する恐れがあるためです。
また、見積書に作業内容の詳細な内訳、使う資材や機材の費用、廃棄物処理費用などが明確に記載されているか確認します。
さらに、不要な解体が行われていないかも確認しましょう。
併せて、作業完了後の保証内容や万が一の事故や破損時の補償についても、契約書に明記されているかの確認も必要です。
特に大切なのは、見積金額が作業完了までの総額として提示されているかどうかです。
途中で追加料金が発生する可能性がある場合は、その条件についても事前に確認しておきましょう。
選び方3.遺品の分類や遺品の消臭も可能か確認する
特殊清掃と遺品整理を一括で依頼できる業者を選ぶことで、作業効率が上がり、トータルコストを抑えることができます。
遺品整理では、形見分けができる品物、廃棄すべき物、リサイクル可能な物などを適切に分類する必要があります。
また、遺品にも異臭が染み付いている可能性もあるため、消臭作業も必要です。
この作業を一貫して行える業者であれば、物件の原状回復と遺品の処理を並行して進めることができ、作業期間の短縮にもつながります。
また、遺族との連絡調整や必要書類の作成なども一元化できるため、手続きがスムーズです。
さらに、リサイクル可能な遺品の買取サービスを提供している業者であれば、処理費用の一部を相殺できる可能性もあります。
5.孤独死によって事故物件化した場合は告知義務が発生する?
孤独死が発生した物件の告知義務については、状況によって判断が分かれます。
物件の次の入居者を募集する際、どのような場合に告知が必要になるのか、具体的に確認していきましょう。
- 告知義務が課せられる場合
- 告知義務が課せられない場合
それぞれ、以下で詳しく解説します。
告知義務が課せられる場合
孤独死による告知義務が発生するのは、物件に「心理的瑕疵」があると判断される場合です。
まず、自然死であっても発見が遅れ、室内に著しい汚損や異臭が残ってしまったケースになります。
特に夏場は腐敗が進みやすく、床や壁への染み込みが発生しやすいため、告知が必要になる場合が多いです。
また、自殺による孤独死の場合は、その事実自体が心理的瑕疵として扱われます。
自殺現場となった物件は、次の入居者の心理面に影響を与えることが多いと判断されるためです。
このような場合、賃貸借契約時に必ず事実を告知する必要があります。
告知義務が課せられない場合
自然死による孤独死であり、かつ発見が早かった場合は、基本的に告知義務は発生しません。
例えば、病死や老衰による死亡で、数日以内に発見され、室内の汚損も最小限に抑えられた場合が該当します。
また、原状回復工事が完了し、物件の状態が完全に回復された場合も、心理的瑕疵はないと判断されるケースが多くあります。
ただし、入居希望者から孤独死に関する質問を受けた場合は事実を正直に答えるようにしてください。
特に賃貸借契約時に「事故物件であるかどうか」という質問があった場合は、たとえ告知義務がない場合でも、誠実に回答することが重要です。
6.孤独死の原状回復費用の相場を理解し適切な業者に依頼しましょう
孤独死の原状回復費用は、発見までの経過時間や汚損の程度によって大きく変動します。
一般的な相場として50万円から300万円程度が目安となりますが、状況によってはさらに高額になることもあります。
不測の事態が発生した際の経済的・時間的負担を最小限に抑えるためには、費用相場を理解し、適切な業者選定を行うことが必要です。
孤独死のリスクに備え、計画的な対策を講じることで、安定した賃貸経営を継続できるでしょう。