火災後に発生する有害物質のリスクとは?除去方法や業者選びのポイントも解説

火災が発生したあと、消防隊が鎮火作業を完了しても、そこで安心してはいけません。
焦げた臭いや煙の残留物のなかには、家族の健康を脅かすさまざまな有害物質が残っているためです。
なかでも子どもや高齢者、既往症のある方は影響を受けやすく、早急な対策が必要です。
この記事では、火災後に発生する有害物質の種類やそのリスク、適切な除去方法について詳しく解説します。
正しい知識を身につけ、家族の健康を守るための適切な対策を講じましょう。
目次
1.火災後に発生する有害物質の種類とその影響
火災後の建物内には、燃焼過程で発生したさまざまな有害物質が残留しています。
目に見えないものが多く、知識がなければその危険性に気づくことができません。
ここでは、火災後に特に注意すべき以下の有害物質と、その健康への影響について解説します。
- 一酸化炭素
- シアン化水素
- 多環式芳香族炭化水素(PAHs)
- アスベスト(石綿)
- ダイオキシン
それぞれ見ていきましょう。
物質1.一酸化炭素
一酸化炭素は、火災後にも危険をもたらす有害物質です。
無色・無臭で感知しにくい猛毒ガスであり、火災が完全に鎮火したように見えても、くすぶっている箇所から発生し続ける危険性があります。
一酸化炭素の恐ろしさは、血液中のヘモグロビンと結合し、酸素運搬機能を阻害する点です。
これにより、頭痛、めまい、嘔吐といった初期症状から、重度の場合は意識障害や死に至ることもあります。
なかでも子どもや高齢者は少量の一酸化炭素でも重篤な症状を引き起こす可能性があるため、細心の注意が必要です。
火災後の建物に入る際は、必ず換気を十分に行い、可能であれば一酸化炭素検知器を使用して安全を確認することが重要です。
物質2.シアン化水素
シアン化水素は、カーテンやカーペットなどのアクリル・ビニール製品が燃えると発生するもので、火災現場で特に危険な有害物質の1つです。
現代の住宅には合成素材が多く使われているため、火災後のシアン化水素の発生リスクは高いです。
このガスは呼吸器や神経系に強い影響を与え、頭痛、めまい、無呼吸、全身けいれんなどの症状を引き起こします。
シアン化水素は一酸化炭素と同様に無色ですが、わずかにアーモンドのような臭いがするのが特徴です。
ただしこの臭いを感知できない人も多いため、臭いの有無だけで安全を判断できません。
火災後の建物に入る際は、専門家による空気質の検査を受けることが重要です。
参考:シアン化水素
物質3.多環式芳香族炭化水素(PAHs)
多環式芳香族炭化水素(PAHs)は、物の不完全燃焼によって発生するススに含まれる有害物質です。
火災後の黒いススのなかには、この危険な物質が高濃度で含まれています。
PAHsのもっとも懸念される健康影響は、発がん性です。
なかでも肺がんのリスクを高めることが知られており、長期間の曝露によって健康被害を生じる可能性があります。
特に注意すべき点は、PAHsはススに付着して長期間残存することです。
火災後に表面的な清掃を行っても、壁や天井、家具の隙間などに残ったススからPAHsが徐々に放出され続け、室内の空気を汚染するため、火災後は専門的な除染作業が必要となります。
参考:火災により排出される多環式芳香族炭化水素とダイオキシン類の環境影響に関する研究動向
物質4.アスベスト(石綿)
アスベスト(石綿)は、2006年以前の建物に断熱材や建材として広く使用されていました。
火災によって建材が損傷すると、このアスベストが空気中に飛散する危険性があります。
アスベストは肺がんや中皮腫など深刻な健康被害をもたらすリスクがある物質です。
なかでも注意すべき点は、その潜伏期間の長さです。
アスベストによる健康被害は曝露から発症まで最大50年かかることもあり、長期的な健康リスクとなります。
アスベストは小さな繊維で、目視では確認が困難なため、2006年以前に建てられた建物で火災が発生した場合は、専門家によるアスベスト検査が必要不可欠です。
検査なしに清掃や修繕作業を行うと、アスベストを飛散させてしまう危険性があります。
参考:火災現場及び調査現場に浮遊する粉じん中のアスベスト検出手法の検証
物質5.ダイオキシン
ダイオキシンは、プラスチック製品や塩素を含む物質が燃焼する際に発生する有害な化合物です。
現代の住宅にはプラスチック製品が使用されているため、火災後のダイオキシン汚染は重要な懸念事項といえます。
ダイオキシンには発がん性や内分泌かく乱作用があり、長期的な健康リスクをもたらします。
皮膚からも吸収され、ダイオキシンで汚染された表面に触れることでも体内に取り込まれかねません。
ダイオキシンにさらされると、免疫機能低下や甲状腺機能の低下を引き起こす可能性もあります。
なかでも発達段階にある子どもへの影響が懸念されることから、火災後の復旧作業では適切な防護措置と専門的な除染が必要です。
参考:ダイオキシン類
2.火災後の有害物質を放置することで起こるリスク
火災後の有害物質を放置すると、以下のようにさまざまな健康リスクや環境問題が発生します。
- 健康を害する
- 有害物質が家具や衣類に染みこむ
- 近隣住居や周辺環境への拡散
ここでは、火災後の有害物質を放置することで起こり得る主なリスクについて見ていきましょう。
リスク1.健康を害する
火災後に残留する有害物質は、居住者の健康にさまざまな悪影響を及ぼします。
- 呼吸器系への刺激による咳や息切れ、呼吸困難
- 頭痛、めまい、吐き気などの急性症状
なかでも注意が必要なのは、子どもや高齢者、持病がある人です。
子どもは体重あたりの呼吸量が多く、また発達段階にある臓器が有害物質の影響を受けやすいため、特に注意が必要です。
長期的にさらされると、より深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
慢性的な呼吸器疾患や、PAHsやアスベストなどによる発がんリスクの増加が懸念されるため、放置は厳禁です。
リスク2.有害物質が家具や衣類に染みこむ
火災後のススや煙の成分は、布製ソファやカーペット、マットレスなどの多孔質の素材に深く浸透します。
この有害物質は通常の掃除や洗濯では完全に除去することが難しく、長期間にわたって残留する可能性があります。
衣類や寝具に染み込んだ有害物質は、皮膚に直接接触すると皮膚炎や湿疹などの皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。
なかでも敏感肌の方や子どもは影響を受けやすいため注意が必要です。
家具の木材や内部構造にまで有害物質が浸透すると、長期間にわたり室内空気を汚染し続けることになります。
これにより、シックハウス症候群のような症状が現れるリスクもあります。
日常的な掃除や掃除機使用時にも、この有害物質が再び空気中に拡散し、二次的な吸引被害をもたらすため、通常の生活でも継続的な曝露が避けられなくなるでしょう。
リスク3.近隣住居や周辺環境への拡散
火災後の有害物質の問題は、被災した住居だけにとどまりません。
換気や清掃の際に有害物質を含んだ空気が外部に流出し、アパートやマンションでは被害が隣接住戸にもおよぶ危険性があります。
雨水や清掃時の洗浄水により有害物質が排水溝から下水道システムに流出し、最終的に河川や土壌を汚染する恐れもあります。
環境問題としても深刻な懸念事項です。
近隣住民、なかでも子どもや高齢者、既往症のある方の健康にも影響をおよぼす可能性があり、近隣トラブルや責任問題に発展することもあります。
さらに、環境汚染につながることで、地域全体の不動産価値の低下や、長期的な環境修復コストが発生するリスクもあるでしょう。
火災後の有害物質対策は、自分自身と家族の健康を守るだけでなく、社会的責任としても重要な課題なのです。
3.火災後の有害物質の除去を業者に依頼するべき理由
火災後の有害物質除去は、一般の方が自力で行うには危険が伴う専門的な作業です。
ここでは、なぜ専門業者への依頼が必要なのか、その理由について詳しく解説します。
- 専門的な知識と装備が必要なため
- 周囲の安全を確保できるから
- 専門の調査が必要になるため
この3点について見ていきましょう。
理由1.専門的な知識と装備が必要なため
火災後の有害物質除去には、専門的な知識と装備が不可欠です。
各有害物質の特性(気体・粒子状・付着型など)に応じた適切な除去方法を熟知している専門業者は、素人の対応では取り除けない物質も除去できます。
専門業者は高性能防塵マスク(N95規格以上)、特殊防護服、HEPA規格の空気清浄機など、一般家庭では入手困難な専門装備を使用して作業を行います。
これにより、作業員自身の安全を確保するとともに、作業中に有害物質が再拡散するリスクを最小限に抑えることが可能です。
密閉シート設置や負圧管理など、有害物質を外部に漏らさない高度な封じ込め技術を持っており、二次被害を防止できます。
さらに、オゾン発生装置や特殊洗浄剤など、一般には扱えない特殊な除染機材や薬剤を適切に使用することで、効果的かつ安全な除染作業を実現できます。
火災後の有害物質は目に見えないものが多く、素人では除去できたかどうかの判断も困難です。
その点、専門業者は適切な測定機器を用いて、作業前後の有害物質濃度を測定し、除染の効果を科学的に確認できます。
理由2.周囲の安全を確保できるから
火災後の有害物質除去作業では、作業中に有害物質が再拡散するリスクがあります。
その点、専門業者は汚染拡大を防ぐための適切な対策を実施することで、二次被害を防止できます。
具体的には、作業エリアを完全に密閉し、負圧装置を設置することで、有害物質を含んだ空気が外部に漏れ出すのを防げます。
作業員の出入りに際しても、エアロック室を設けるなど、汚染の拡散を最小限に抑える対策を講じるといったことも可能です。
加えて、専門業者は有害物質を含んだ洗浄水を適切に回収・処理し、環境被害にも配慮しています。
作業完了後には空気質の測定を行い、安全性を確認したうえで居住者に引き渡すため、火災後の有害物質による健康リスクを最小限に抑え、安心して生活を再開できるのです。
理由3.専門の調査が必要になるため
火災現場で作業を行う前には、建物の状態や有害物質の種類・濃度を正確に把握するための専門的な調査が必要です。
なかでも重要なのが、石綿含有量調査です。
2006年以前に建てられた建物では、アスベストが使用されている可能性が高く、火災による建材の損傷でアスベストが飛散するリスクがあります。
「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持つ技術者による正確なアスベスト検査により、法的要件を満たした安全な復旧作業が必要になります。
石綿が検出された場合、専門業者は適切な封じ込めや除去作業の計画を立案してくれるため、法令違反のリスクを回避できます。
アスベスト除去は法律で厳しく規制されており、無資格者による不適切な作業は法的責任を問われる可能性を捨てきれません。
専門業者は火災の種類や燃焼物に応じて、どのような有害物質が発生している可能性があるかを予測し、適切な検査を行うことができます。
これにより、見落としのない総合的な除染作業が可能になるのです。
4.火災後の有害物質を除去してくれる業者選びのポイント
業者選びの際に確認すべきポイントは以下のとおりです。
- 火災直後の有害物質を分解できる技術力があるか
- ダイオキシン類を正確に測定できるか
- 石綿含有量調査の資格を持っているか
- 見積もり・契約内容が明確か確認する
それぞれ見ていきましょう。
ポイント1.火災直後の有害物質を分解できる技術力があるか
火災後の有害物質除去には、高度な技術力が求められます。
業者選びの際は、一酸化炭素やシアン化水素などのガス状有害物質を検知・分解できる専用機器や技術を保有しているかを確認しましょう。
基本的に、効果の実証データを提示できる業者は信頼性が高いといえます。
また、有害物質の分解・除去作業の具体的な方法についても確認することが重要です。
オゾン処理、活性炭吸着、負圧管理下での除染など、どのような方法で有害物質を除去するのか、明確に説明できる業者を選びましょう。
ホームページなどで過去の実例や効果を公開している業者は、実績と経験があると判断できます。
また、IICRC認定の火災・煙害復旧技術者など、火災復旧の専門資格を持つスタッフが在籍しているかも確認すると良いでしょう。
ポイント2.ダイオキシン類を正確に測定できるか
ダイオキシン類は、微量でも健康に影響をおよぼす可能性がある有害物質です。
そのため、正確な測定能力を持つ業者を選ぶことが重要です。
ダイオキシン類を正確に測定できる高精度な分析機器を保有しているか、または専門の測定機関と提携関係にあり、定期的な測定実績があるかを確認しましょう。
測定方法や採取場所、分析方法などを詳細に記載した報告書を提供し、透明性の高い情報開示をしてくれる業者は信頼性が高いといえます。
また、測定結果にもとづいて具体的な対策を提案できる能力も重要です。
ダイオキシン類の濃度に応じた適切な除染方法を説明し、対策を立案できる業者を選びましょう。
ポイント3.石綿含有量調査の資格を持っているか
アスベスト(石綿)は火災後の復旧作業でなかでも注意が必要な有害物質です。
業者選びの際は、厚生労働省認定の「建築物石綿含有建材調査者」資格保有者が在籍しており、その証明書を確認できる業者を選ぶことが重要です。
この資格を持つ技術者による調査結果は、法的に有効な調査結果として認められます。
アスベスト調査の実施実績が豊富で、異なる建築年代や構造の建物に対応した経験を持つ業者には、正確な検査と適切な対策が期待できます。
また、封じ込め、除去など、アスベストが検出された場合の対応方針についても事前に確認しておくと良いでしょう。
適切な対応策を提案し、法令に基づいた作業計画を立案できる業者を選ぶことが重要です。
ポイント4.見積もり・契約内容が明確か確認する
見積もりや契約内容の明確さを確認することも重要なポイントです。
まず、複数の業者から見積もりを取ることをおすすめします。
これにより、相場を把握するとともに、各業者の対応の違いを比較できます。
作業内容ごとの単価や項目が明確に記載された詳細な見積書を提示し、追加費用の発生条件なども事前に明示してくれる業者は信頼できるでしょう。
また、見積書には、以下のような項目が明確に記載されているか確認するのがおすすめです。
- 有害物質の調査費用
- 除染作業の範囲と方法
- 使用する機材や薬剤
- 廃棄物処理費用
- 作業期間
- 保証内容
- 追加費用が発生する条件
気になる点や不明点があれば質問し、納得したうえで契約するようにしましょう。
5.火災後は有害物質対策を徹底しましょう
火災後の有害物質対策は、あなた自身や家族の健康を守るために重要です。
火災による直接的な被害は目に見えますが、有害物質による健康被害は目に見えにくいため見過ごされやすい傾向です。
だからこそ、有害物質の調査や除去作業は、必ず専門業者に依頼しましょう。
専門業者は適切な知識や技術を持っているため、安全かつ確実に有害物質を除去できます。
費用や手間がかかると考える方もいるかもしれませんが、長期的な健康リスクを考えれば必要不可欠な投資です。