弄便とは?原因や対処方法、再発を防ぐための対策方法を解説

自らの排泄物を触り、壁や布団に擦りつける行為を「弄便(ろうべん)」といいます。
この弄便は、認知症や脳機能の低下によって起こる症状であり、決して悪意があるわけではありません。
本人なりの理由や背景を理解することで、適切な対応を取ることが大切です。
しかし、家族が弄便をしていることがわかった場合、多くの方がショックを受けるものです。
そこでこの記事では弄便が起こる原因や具体的な対処法、再発を防ぐための対策までを詳しく解説します。
家族の弄便に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
1.弄便とは?
弄便とは、認知症や脳の機能低下により、自らの排泄物を手で触ったり、周囲に擦りつけたりする行為のことです。
認知症が中等度以上に進行している場合に多く見られる症状で、「不潔行為」と呼ばれる行動の一種です。
例えば、おむつの中に手を入れて便を取り出したり、その手で壁や寝具、衣類などを汚したりする行動が見られます。
本人には悪意はなく、何らかの理由や目的があって行っているものです。
そのため、適切な対応と環境調整によって、弄便の症状を軽減できる可能性があります。
2.弄便が起こる原因
弄便が起こる主な原因には、以下のようなものがあります。
- 排便の感覚が低下している
- 不快感を取り除こうとしている
- 便を便だと認識できていない
- 失禁したことを隠そうとしている
下記にて、詳しく見ていきましょう。
原因1.排便の感覚が低下している
弄便を引き起こす原因の1つ目は、高齢になって腸の機能が弱くなり、排便の感覚が鈍くなっているためです。
認知症の進行によって感覚が低下するため、おむつの中に排泄物があっても「便をした」という自覚は本人にありません。
しかし、便が体に付着することで不快感は感じるため、その不快感の原因が何かを確かめようとして、おむつの中に手を入れてしまうのです。
おむつの中で長時間便が肌に触れた状態が続くと、皮膚のかゆみや炎症を引き起こし、さらに弄便を誘発する悪循環につながることもあります。
原因2.不快感を取り除こうとしている
弄便を引き起こす原因の2つ目は、不快感を取り除こうとしておむつの中に手を入れ、原因となっているものを取り除こうとするためです。
おむつの中に便があると蒸れや違和感などの不快感が生じます。
また、下痢の場合はさらに肌への刺激が強く、かゆみや痛みを感じることも少なくありません。
つまり弄便は、私たちが靴の中に小石が入ったとき、「おかしい」「痛い」と感じて確かめようとすることと似た行為なのです。
手に便が付いてしまうと、清潔にしたいという欲求から拭き取ろうとして衣服や寝具、壁などに擦りつけてしまうこともあります。
原因3.便を便だと認識できていない
弄便を引き起こす原因の3つ目は、認知機能の低下により、便を「不潔なもの」として認識できなくなっているためです。
便を見てもそれが何であるかわからないうえに、下記のように別のものと誤認することもあります。
- 美容クリームと勘違いして顔に塗る
- 食べ物と思って口に入れる
- 大切なものだと思い込み丁寧に包んで保管する
認知症や脳機能の低下が起こっている人は視覚や嗅覚の感覚も鈍くなっているため、便の色や臭いから「汚いもの」だと判断できません。
私たちが当たり前に持っている「便は不潔」という認識は、実は後天的に学習したものであり、症状によってその学習が薄れてしまうのです。
原因4.失禁したことを隠そうとしている
弄便を引き起こす原因の4つ目は、失禁してしまったことを自覚し、恥ずかしさや後ろめたさから証拠を隠そうとするためです。
自分で処理しようとするものの、適切な方法がわからずにパニックになり、結果として弄便につながるといった具合です。
特に、これまでの生活で清潔さや自立を重んじてきた方は、失禁に対する羞恥心が強くなりやすい傾向にあります。
家族に知られたくないという思いから、汚れた下着をタンスに隠したり、便を取り除こうとしたりもします。
また過去に失禁を叱られた経験があると、さらに隠そうとする傾向は強まります。
本人のプライドを傷つけるような対応は避け、自尊心に配慮した声かけが大切です。
3.弄便があった場合の対処方法
弄便を発見したときの適切な対処方法には、以下のようなものがあります。
- 叱ったり責めたりせず優しい言葉をかける
- 手の汚れを拭き取る
- お風呂に誘導する
これらの対応を冷静に行うことで、本人の不安や不快感を軽減し、状況を改善できます。
感情的にならず、本人の気持ちに寄り添った対応を心がけましょう。
対処方法1.叱ったり責めたりせず優しい言葉をかける
弄便を見つけたとき、ショックや怒りを感じるのは自然なことですが、叱ったり責めたりすることは避けましょう。
本人の自尊心を傷つけないよう、「気づいてあげられなくてごめんなさい」といった姿勢で接することが大切です。
本人は悪意があってしているわけではなく、何らかの理由があって行動しています。
感情的になってしまうと、本人は何を叱られているのかわからず、ただ不安や恐怖を感じるだけです。
また認知症の方は叱られた内容自体を忘れてしまうことが多いため、「次からはやめよう」という学習にもつながりません。
叱ると逆効果になり、かえって弄便が悪化したり、介護拒否につながったりすることもあります。
代わりに、「大丈夫ですよ」「一緒にきれいにしましょうね」など、安心させる言葉をかけましょう。
冷静で優しい対応が、結果的に症状の改善につながります。
対処方法2.手の汚れを拭き取る
弄便を発見したら、声をかけたあとに手についている便を拭き取りましょう。
手の汚れをそのままにしておくと、本人が目をこすったり口に入れたりする可能性があり、感染症のリスクも高まります。
可能であれば、ウェットティッシュやタオルで手をきれいに拭き、爪の間など細かい部分まで清潔にしましょう。
手の汚れを取り除いた後は、アルコール消毒なども効果的です。
ただし、皮膚の弱い方の場合は刺激が強すぎることもあるので、状態に合わせて対応しましょう。
できるだけ早く対応することで、感染リスクを防ぎ、本人の不快感も軽減できます。
対処方法3.お風呂に誘導する
手の汚れを拭き取った後は、お風呂場に誘導して体全体を洗いましょう。
お風呂に誘導する際は、「綺麗にしましょう」「一緒にお風呂に入りませんか?」など、拒否感を減らす声かけが効果的です。
無理強いはせず、本人のペースに合わせて対応してください。
本人が嫌がっている場合は無理に連れて行かないようにしましょう。
お風呂に対して恐怖心や嫌なイメージを持ってしまい、今後の入浴拒否につながる可能性もあります。
お風呂場では優しく丁寧に洗い、清潔で快適な状態に戻してあげることが大切です。
4.弄便が起こらないようにするための対策方法
弄便を予防するための対策には、以下のようなものがあります。
- 下剤の使用は避け、自然な排便を目指す
- トイレに誘導する
- おむつをこまめに交換する
- 便に触れられないような環境を目指す
- 被害を最小限にとどめるための工夫をする
- 介護のプロに相談する
状況に応じて適切な方法を選びましょう。
対策方法1.下剤の使用は避け、自然な排便を目指す
認知症になると腸の機能が低下し、便秘になりやすくなります。
そのため、下剤を処方されることが多いのですが、下剤の影響で便が緩くなると、排便感覚がさらに低下して弄便の原因になる可能性があります。
そのためできるだけ下剤に頼らず、自然な排便を促す工夫をしましょう。
食物繊維が豊富な食事や十分な水分摂取を基本とし、適度な運動や腹部マッサージを行うのも効果的です。
また朝食後にトイレに座る習慣をつけるなど、生活リズムを整えることも有効です。
自然な排便ができれば、便の性状も安定し、弄便のリスクを減らすことができます。
医師と相談しながら、下剤の使用量を調整することも検討しましょう。
対策方法2.トイレに誘導する
弄便の多くは、おむつから伝わる不快感が原因です。
そのため、できるだけトイレで排便できるよう支援することが効果的です。
普段から排泄のタイミングやサインを観察し、「そわそわする」「落ち着きがなくなる」などの前兆があれば、トイレに誘導しましょう。
また、食後や起床時など、排便しやすい時間帯を把握しておくことも大切です。
「トイレに行きましょう」などと声をかけ、定期的にトイレに座る習慣をつけることで、自然な排便を促すことができます。
トイレでの排便が習慣化すれば、おむつ内での排便が減り、弄便のリスクも低下します。
もし歩行が困難な場合は、ポータブルトイレを活用しましょう。
ベッドの近くに設置することで、移動の負担を減らすことができます。
対策方法3.おむつをこまめに交換する
トイレでの排便が難しく、おむつを使用する場合は、こまめに確認・交換することも対処法として有効です。
便が長時間肌に触れていると、不快感やかゆみの原因となり、弄便を誘発するためです。
なるべく排便のタイミングを把握するようにし、排便後はすぐにおむつを交換しましょう。
また、定期的におむつを確認する習慣をつけることも忘れないでください。
おむつ交換の際は、肛門周りを清潔に保ち、保湿クリームやワセリンを塗っておくと皮膚トラブルを予防できます。
皮膚が健康であれば、かゆみなどの不快感も減り、弄便の予防につながります。
加えて、フィット感が悪いと不快感の原因になるため、適切なサイズや種類のおむつを使用できているかも確認してください。
対策方法4.便に触れられないような環境を目指す
どうしても弄便が続く場合は、物理的に便に触れられないような工夫を検討しましょう。
例えば、つなぎ服(後ろ開きの服)を着用すると、自分でおむつに手が届きにくくなります。
特に夜間や目が離せない時間帯に活用すると効果的です。
また、手袋やミトンを使用して、直接便に触れないようにする方法もあります。
ただし、この方法は本人の自由を制限することになるため、最終手段として考え、使用する場合も必要最小限にとどめましょう。
いずれの対策も「身体拘束」に該当する可能性があるため、導入前には医師や介護の専門家に相談することをおすすめします。
対策方法5.被害を最小限にとどめるための工夫をする
弄便が完全に防げない場合は、被害を最小限にとどめる環境づくりに目を向けてください。
例えば、ベッドのシーツや布団には防水カバーを使用し、汚れても簡単に洗えるようしましょう。
また、使い捨てのシーツを重ねておくと、汚れた場合にすぐに取り替えられて便利です。
壁には保護シートを貼っておくと、汚れても簡単に拭き取ることができるためおすすめです。
また、床が畳の場合は、フローリングカーペットなど拭き取りやすい素材に変更することも検討しましょう。
掃除用具や消毒液、手袋なども常に近くに置いておくと、すぐに対応できて安心です。
対策方法6.介護のプロに相談する
弄便は介護者にとって大きな負担となる代表例な症状のため、一人で抱え込まず、専門家に相談しましょう。
介護者自身の心身の健康を守り、無理をしないためにも、適切なサポートを受けることが大切です。
ケアマネジャーや担当医、地域の介護相談窓口などに相談すると、状況に応じたアドバイスが得られます。
また、訪問介護サービスやデイサービスなどの利用も、介護の負担を分散するためにおすすめです。
特に弄便が頻繁に起こる場合は、医学的な原因がないか医師に相談することも重要です。
薬の副作用や皮膚疾患など、治療可能な原因もあります。
5.弄便があっても冷静に対処しましょう
弄便は介護者にとって大きなショックと負担をもたらしますが、本人には悪意はなく、何らかの理由があって起こる行動です。
原因を理解し、適切に対応することで、状況を改善できる可能性があります。
叱ったり責めたりすると、かえって状況が悪化するため、感情的にならず冷静に対応することが大切です。
また困ったときは一人で抱え込まず、専門家に相談したり、介護サービスを利用したりすることも検討してください。
焦らず根気強く取り組んで、介護者自身の心身の健康を守りながら、穏やかな介護生活を目指しましょう。